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VOICE Vol.24

正しい知識で「咽喉頭逆流症」と向き合う

胃酸の逆流が、のどにさまざまな症状を引き起こすことがあります。こうした症状は咽喉頭逆流症(いんこうとうぎゃくりゅうしょう) と呼ばれており、最近注目されています。
咽喉頭逆流症の診断や治療法、生活へのアドバイスについて、声とのどの専門家である国際医療福祉大学東京ボイスセンターセンター長 渡邊雄介先生にお話を伺いました。

東京ボイスセンターではどのような診療をされているのでしょうか?image

東京ボイスセンターは、発声に注目した診療を目的として2001年に設立された、のどの病気を専門とする病院です。当院を受診される患者さんの訴えは多様で、歌手や舞台人など声を使う職業に就かれている方の音声障害や、喉頭がんなどにより声を失った方の代替音声の獲得をはじめ、子どもの吃音(きつおん)や、例えばお寿司を「おちゅち」と言ってしまうような構音(こうおん)障害、ポリープや声帯麻痺、脳梗塞などに伴う飲み込み(嚥下)障害や失語症など、発声と言葉、飲み込みに関連する障害はすべて当院で診療しています。私自身は、歌手の声嗄れを主に診療しており、加えて、がんやその治療によって起こる声帯麻痺などの音声障害や嚥下障害に対しても、外科治療や、切除せずに治す音声治療も行っています。

咽喉頭逆流症(LPRD)とはどのような病気なのでしょうか?image

咽喉頭逆流症(いんこうとうぎゃくりゅうしょう)(laryngopharyngeal reflux disease:LPRD)は、胃酸や胃の内容物が逆流することによって症状が出る胃食道逆流症(GERD[ガード])のうち、咽喉頭に症状が出る病気の総称です。「胸やけ」がのどの部分で起きる、「のどやけ」の状態を想像していただくとわかりやすいと思います。海外の学会では歌手の治療に関する報告をすると必ず、「GERDの治療をしたか?」と聞かれるほど、胃酸の逆流と声嗄れの関係は広く認識されています。海外では、著名人の声嗄れの原因がGERDであったということからもLPRDが広く知られるようになりました。

どのような症状がでるのでしょうか?image

咳や声嗄れの他、のどのイガイガ感、つかえ感、のどに塊が引っかかった感じなどの異常感、胃液がのどまで逆流する感じ(呑酸[どんさん])など、さまざまな訴えがあります。最も多いのは、のどのイガイガ感、つかえ感、塊が引っかかった感じといった、のどの異常感です。
のどの症状と胸やけの両方を伴うケースは3~5割程度で、GERDの典型的な症状である胸やけや呑酸はなく、のどの症状のみを訴えるケースが多くあります。

のどの症状を訴えて受診する患者さんは増えていますか?image

日本人の生活習慣の欧米化や、ピロリ菌の除菌が進んだことによるGERD患者さんの増加に加え、近年、GERDという疾患が広く啓発されてきたこともあり、受診される患者さんは増えています。私が医師になった25年前にはGERDという疾患概念はまだ広く知られてはいませんでしたが、近年、GERDが医師と患者さんの双方に広く認知されるようになったことが、治療を受ける患者数の増加につながっていると考えられます。

日常生活にはどのような影響があるのでしょうか?image

LPRDは、のどの症状のほかにも呼吸困難感や、睡眠時にのどや鼻の奥まで胃酸が逆流した痛みで目が覚めてしまう(夜間覚醒)など、24時間にわたって患者さんの生活に影響を与えることがあります。また、LPRDは一般診療科では診断がつきにくい場合があるため、診断がつくまで何度も病院を受診される患者さんも多くいらっしゃいます。こうしたことが、患者さんの生活にネガティブな影響を及ぼしているのかもしれません。

どのように診断・治療されるのでしょうか?image

診断に際してはまず、ファイバースコープ検査で、がんなど命に関わる疾患の可能性がないか確認します。その上で、のどの食道に近い部分(喉頭後部)が赤くなっていたり、粘膜が厚くなったりしていないかを検討し、こうした所見や患者さんの症状を総合的に考慮してLPRDの診断を行います。
LPRDの治療には、胃酸の逆流が原因のGERDであるか確認をし、酸分泌抑制薬であるプロトンポンプインヒビター(PPI)などを使用します。胃酸が主な原因になっている患者さんでは、薬物治療により症状消失が期待できます。実際、LPRDの治療を開始するまでは、咳喘息や他の感染症などの治療を受けて効果が得られなかった患者さんで、症状が消失するケースがあります。

どのくらいの期間で症状が改善するのでしょうか?image

症状消失までに要する期間は患者さんによりさまざまですが、治療開始から2週目ぐらいで改善がみられ、その後、正常域に達するまでには8週から12週程度を要するとされています。GERDもLPRDも酸の逆流が異常感をもたらすことでは共通しているのですが、のどは食道に比べ非常に敏感な器官で、少しの刺激でも症状が出やすい傾向にあります。例えば、のどというのはご飯粒一粒、髪の毛1本で症状が出るといったように、刺激に対して極めて敏感です。このため、24時間のうち1回でものどに酸が逆流すると、のどはそれを異常と捉えることがあり、逆流回数が1日3回から1回に減っても症状が抑えきれないケースもあります。こうしたケースでは、長い期間での治療が必要となる場合があります。

のどの症状が気になる方へのアドバイスをお願いします。image

のどの症状が酸の逆流で生じることがあることは医療者の間でもかなり広く認識されるようになってきましたが、のどの専門でない診療科などではLPRDの診断が抜け落ちることがあります。治療を受けていてものどの症状が残るような場合は、耳鼻咽喉科のなかでも、のどの専門医がいる医療機関を受診することをおすすめします。そこできちんと診断され、早期に治療を開始することで、医療費や受診に要する時間の面からも、また何よりも患者さんの身体にとって、もたらされるメリットは大きいと思います。
先述のようにLPRDにはさまざまな要因が関係するため、薬物療法だけでなく、生活習慣を見直すことも大切な治療のポイントです。一度に食べる量が多い、甘いものを食べてしまう癖がある、食べ方が早い、食べてから寝るまでの時間が短くなってしまうなどということがあると、薬物療法だけで十分な改善が得られないことがあります。よく噛んで食べる、腹8分目にする、食事と睡眠の時間をあけるなど、生活習慣の改善もぜひ積極的に取り入れていただきたいと思います。

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総監修 渡邊 雄介(わたなべ ゆうすけ)先生
国際医療福祉大学 医学部 耳鼻咽喉科 教授 東京ボイスセンター センター長
日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医、日本気管食道科学会認定気管食道科専門医
1990年 神戸大学医学部卒業。
2000年 大阪大学大学院 耳鼻咽喉科助手、2001年同 講師。
2007-2012年 国立身体障害者リハビリテーションセンター学院非常勤講師、
2008年より日本大学芸術学部非常勤講師、2012年より現職。
2014年より東北大学医学部非常勤講師、2015年より山形大学医学部臨床教授。
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