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VOICE Vol.29

正しい知識で「胃食道逆流症」と向き合う

近年、高齢者を含め、日本人に増えている消化器の病気の一つに「胃食道逆流症(GERD[ガード])」があります。
GERDとはどのような病気で、日常生活にはどのように影響するのか。またGERDは、高齢者において消化器以外の病気や治療とどんな関わりがあるのかについて、消化器専門医として多くのGERD患者さんの診療にあたっておられる東京都健康長寿医療センター 内視鏡科 部長の西村誠先生にお話を伺いました。

GERDとはどのような病気ですか?image

胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流することによってさまざまな症状が生じたり、食道の粘膜が傷ついたり(逆流性食道炎)する病気です。主な自覚症状としては、胸やけやつかえ感、声のかすれ、咽頭や喉頭の違和感などがあります。症状のなかでは胸やけが一番多いのですが、胸やけという言葉を使わず、みぞおちのあたりの痛みや不快感などとして訴える患者さんも多くいらっしゃいます。なかには頻繁に嘔吐を繰り返して受診されるといったケースもありますが、その一方で、逆流性食道炎があっても、全く症状がない場合もあります。

高齢の患者さんは多いのでしょうか?image

高齢者では、胃と食道のつなぎ目の筋肉(下部食道括約筋[かぶしょくどうかつやくきん])が緩んでしまったり、骨が脆くなる(骨粗鬆症[こつそしょうしょう])ことなどにより背骨が曲がる(亀背[きはい])、あるいは食道の下部が胃のなかにくい込む(食道裂孔[しょくどうれっこう]ヘルニア)など、加齢に伴うさまざまな変化のため、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流しやすくなってしまう傾向にあります。また近年では、食生活の変化やピロリ菌陰性の方が増えていることなどを背景に、高齢の方でも胃酸の分泌量が増えているというデータもあり、高齢のGERD患者さんは増えていると考えられます。

消化器以外の病気が関係することはあるのでしょうか?image

他疾患を治療している高齢患者が突然吐血し、救急車で搬送された後に緊急内視鏡検査で吐血の原因が重度の逆流性食道炎であったケースもよくあります。特に当院を受診される患者さんは高齢の方が多く、なかには寝たきりの方や認知症の方などでご本人が周囲に伝えることができないために、症状の訴えがない患者さんも少なくありません。こうしたことは、高齢GERD患者さんの特徴だと実感しています。

GERDになると日常生活にはどんな影響がありますか?image

GERD患者さんは日常的に、胸やけやつかえ感、咽頭の違和感などといった不快な症状を持ちながら生活することになります。症状のために食事量を制限するケースもあり、実際、嘔吐するほど亀背のひどい方や食道裂孔ヘルニアが進んだ方では、吐くのが怖いからあまり食べない等、摂食量や摂食行動にも影響が及ぶことも多くあります。現在、日本老年医学会を中心に、高齢者における心身の脆弱性(フレイル)や筋力低下(サルコペニア)が注目されており、そうした状態に陥らないためにも、高齢者が十分な栄養を摂ることは非常に重要です。一方、現代では仕事をする高齢患者さんも多く、80歳代でスーツを着て外来を受診されるケースも決してまれではありません。こうした患者さんの場合は、仕事への影響を考慮した早期の症状改善が重要となります。
また、食道裂孔ヘルニアを合併して嘔吐まで伴い始めると日常生活への支障は大きく、早期に改善しない場合に何ヵ所も診療所を受診したりして、医療機関の受診回数が増える方もいらっしゃいます。医療機関で粘膜保護剤のみ処方されて適切な胃酸分泌抑制剤が処方されていないケースなどもあり、そうした方に内視鏡検査をすると、重度の逆流性食道炎がみつかるといったことがあります。

治療について教えてください。image

生活指導としては、消化に良いものを摂ることに加え、食後すぐに横にならないなど物理的に逆流を抑えるような指導をしています。しかし最近のデータによると、立っている状態でも日中の胃酸逆流は完全に抑えられないことが分かってきており、生活指導のみでは限界があり、適切な薬剤の選択が重要と考えます。薬物治療では、やはり症状の改善を第一目標としています。内視鏡的な改善の度合いを目標とすることも大切ですが、高齢者の場合には内視鏡検査自体が負担となることもありますので、まずは患者さんの訴えによく耳を傾けながら、症状の改善を目指します。

GERDの症状でお困りの読者の皆さんへのアドバイスをお願いします。image

高齢者の場合、症状の訴えが適切にできない方もいらっしゃいますし、みぞおちの痛みに対して消化器症状と思っていたら循環器の病気であったりすることもありますので、他の疾患を適切に診断・除外していただいた上で、消化器内科を早めに受診していただきたいと思います。今では内視鏡も安全に行うことができるようになっていますので、適切な内視鏡診断の下できちんとした薬物治療を受けることをおすすめします。受診時には、過去にピロリ菌の除菌治療や内視鏡検査をしたことがある場合、その検査結果やレポート、またこれまでの病歴や現在の服薬状況などについての情報を伝えていただくと、診断には大変参考になると思います。

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総監修 西村 誠(にしむら まこと)先生
東京都健康長寿医療センター内視鏡科部長、
日本内視鏡学会専門医、
学術評議員、
関東支部評議員、
慶應義塾大学腫瘍センター非常勤講師。
ニューヨーク州医師免許。
1997年 自治医科大学卒業。
1997年 熊本赤十字病院研修医、
2002年自治医科大学消化器内科後期研修、
2007- 2009年 カリフォルニア大学アーバイン校内視鏡フェロー、
2013年 東京都健康長寿医療センター内視鏡科医長。
2016年より現職。
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